レシパーファイル vol.2 鳴瀬直幸さん「手描き友禅染めをベースに 現在にマッチする〝染色工芸品〟を残したい」

鳴瀬直幸

一貫制作にこだわりつつ 〝染め=和装〟のイメージを覆す

染色作家である鳴瀬さんには、一度大阪の展示・販売会でお会いしていた。オリジナルの絵が描かれた手帳、名刺入れ、ポーチ、グラデーションがきれいな色とりどりのストールなど雑貨小物がずらりと並んでいた。「染色=着物」というイメージがあった私は、「こんなのもあるんだ。気軽に買えて普段使いにもいいな」となんだか嬉しくなったのを覚えている。

鳴瀬直幸

今回の取材では、京都にある工房にお邪魔させてもらった。2 月の京都は風が冷たいのだけれど、緑色ののれんの向こうにあたたかい笑顔が見えて、ほっこりとした気分になる。 工房の中を案内してもらうと、無数の筆に染料、描きかけの帯、棚には絵柄の参考ファイルがずらりと並ぶ。大きな蒸し器までもがそろっている。分業が多い京都の工房の中で、鳴瀬さんは受注から納品まで「一貫制作」にこだわり、作業しているからだ。一連の工程をこなすとなると大変な作業だろう。何がきっかけで染色作家になったのか尋ねてみた。

「小さい頃から絵が好きでね。絵の仕事をしようと思ったんです。イラストレーター志望で印刷会社を受けたりしたけれど、染色の会社に縁があったんです」就職した会社は、分業として「染め」を請け負うところ。そこに 7 年。そして図案家さんに数年師事する一方で、「手描友禅染の技術と技法」などの本を読んだり、人の作品を見たりと独学を重ね、十年ほどで形にしたと話してくれた。
「染色工房 鳴瀬」のスタートだ。

現代にマッチする〝染色工芸品〟を残していきたい

鳴瀬直幸

現在、工房としての活動は百貨店などの催事出展と体験ワークショップ講師が主だとのこと。制作内容は和装と雑貨が半々だそう。
「理想はね、和装3:雑貨7の割合なんですよ。礼装の着物もレンタルになったりと、生活スタイルが変わって業界の景気が悪くなった。和装メインではやっていけないと思って、まだ和装の需要があるうちに、雑貨などに移行したんですよ」なるほど。だから前回の展示販売であれだけいろいろな種類の雑貨作品と出会えたのだと納得。10 年も前から雑貨類への移行準備にかかっていたというから、その先見の明に感心させられた。
「もともと、〝染色=着物〟というイメージがあるからね。他のものもあるよ、と広めていきたいんですよ」そう話し、色とりどりのベレー帽を見せてくれる。たとえばピンクベージュのベレー帽。
淡いペパーミント色のラインが入っていて素敵だ。
「この線はね、染めてるんじゃなくて染料を抜いてるんだよ。色のぬけ具合を利用してね、こんな風に模様にするの。上にさらに他の色を入れることもあるね」このベレー帽が三千円代! こんな風に気軽におしゃれに染色作品を楽しめるとは知らなかった。業界の景気が悪いと嘆くのではなく、新しい流れを生み出している鳴瀬さんにスタッフ一同、尊敬のまなざしが向く。
「こういう転換をうまく使って、染色を工芸として残していきたいね。インテリア工芸品とか、現代にマッチするものを世に出していきたいと思っているんですよ」

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