- 2015-11-25
- インタビュー
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〝誰もやってないこと〟―それがこだわり
パリ・ルーブル美術館での展示・販売が終わって帰国したばかりの近本さん。
ルーブルで展示できるってすごい! どんなだったんだろう? 聞きたいことがたくさんでワクワクして取材に出向いた私。
テーブルにつくと近本さんが「ステンレス折り紙®」の作品を並べてくれる。愛くるしいうさぎ。シュールなどくろ。ねずみにお地蔵さん。味わい深いフォルム、けれど元は一枚の金属板、それを手で折り曲げて作っている―初めての世界観にぐっと惹きつけられ作品に見入ってしまう。
「金属って、加工の世界では機械で曲げて溶接や貼り付けが当たり前。手で折り曲げることないんですよね。そこで真逆をいこうって思って」
このステンレス折り紙®、百貨店で実演販売をしたり、体験ワークショップも行っている。
「手で折り曲げるだけなんで、どなたでも気軽に体験してもらえるんですよ」
これが気軽に体験できたら楽しいだろう。でも一体どうやって一枚の板を愛くるしい立体オブジェに変えていくんだろう?
「立体図を頭の中で描くんです。それから、頭の中で立体図を開いていく。最後にCADで描く、という流れですね」
そして切った板を折り曲げれば、最初に思い描いた姿がそこに現れるとのこと。
前職は、金属加工の会社でサラリーマンをしていたという近本さん。
十年前にステンレス折り紙®を考案してからも、しばらくサラリーマン業と並行していたが、もっと広めていきたいという思い、時間の制約などから会社を辞め、2014年10月BIKOH DESIGN(ビコーデザイン)をたちあげた。
サラリーマンとして勤める日々にこんなことを思いつくなんてすごいですね! と言うと
「誰もやってなかったんですよね」と、当時を振り返るような目で話してくれる。
この〝誰もやっていない〟が、近本さんの作品作りのこだわりのひとつだ。
〝似顔絵缶バッジ〟〝イラスト文字〟など、まだ〝誰もやっていない〟ものにこだわって、新たな作品を生み出している。
「似顔絵をやってる人、缶バッジを作っている人はたくさんいるでしょう。でも、両方かけあわせてやっている人はまだいないから」と。
一年は準備期間、やれることをやろうと決めたそう。作品作りにワークショップ、美術展などへの出展・個展にとどまらず、商品開発コンサルタント、衣類やカバン・雑貨などの商品デザインなど、独立して本当に一年? と思うほどに活動の幅が広い!
人との出会いが道を開く
たちあげて一年。ルーブルへのきっかけは、国際現代美術展に出展した際の、オーナーさんつながりだという。
「日本人の参加は十二名だけでした。その中で作品が売れたのは二名で。かなりシビアですよね」
近本さんのステンレス折り紙®は「見たことないものだ!」と売れたそうでさすが! の一言。2016年の開催時には、作家さんを連れていく側にまわる予定とのこと。
「ルーブルにたどりつけたし、この一年は上出来。やるべきこと、いるべきところが見えてきたのが一年の収穫ですね」と語る近本さん。たった一年でパリ・ルーブルでの展示にまでこぎつけられるなんて。一体どんな風に努力すればそこまでたどりつけるのだろう。
「独立してからはいろんな交流会に行きましたね。主催メンバーにもなりましたし、百貨店ルートもたどったり」
絵もなにもかも独学で、何もない状態からのスタートだったので多くの人と出会う必要があると感じていたそうだ。
「すごいと思う作家さん達と出会い、感性がとぎすまされてきてるなあと思いますね」
未来の作家のための場所を作りたい
実りある一年、ただただ順風満帆かと思ったが「だいぶ苦労したよ」との声も出た。
「交流会に行くための費用がけっこうかかりましたから。参加費など、1年で50万くらいでしょうか。金融公庫からお金を借りてるんですよ。ルーブルに行くときも助成金を通して行きました。来年、自分が作家さんを連れて行く時、助成金制度のことを伝えたり書類書きのことなどサポートしていくつもりです」
ものづくり作家さん・アーティストというイメージで取材がスタートしたけれど、近本さんの口からは〝サポート〟というワードがちらほら出てくる。今後、サポ―ト方面も考えているのだろうか。
「これから、作家さんを活かすための仕組みを作りたいと思っています。今はね、若い人が、アートの世界をやめていくんですよ。食べていけないから違う仕事に就く、するとギャラリーがつぶれていく。イベントを開催していけるような新しいギャラリーの仕組みを起ち上げたいんですよ」
未来の作家さん達の道までも考えている近本さん。その視野は本当に広い。
「自分のことばかり考えてたらアートの世界は終わってしまうと思うんです。作家さんが生き残れる場所を作りたい。ルーブルもそのひとつですね」
作家の目線を持っているからこそ、また一年でルーブルにまでたどりつき、はばたく喜びを知っている近本さんだからこそ、言葉に説得力が感じられる。
「やることありすぎてどこから手をつけたらいいやら」そういって笑うけれど、その眼は力強く、若手作家をどんどんひっぱっていくに違いないと感じられる。自身の作家業、そしてサポート業とやることがたくさんで体がもたないですねと笑う近本さん。
「でも、自分ですべて出来る楽しさがありますよね。自分の可能性と向き合える。〝生きてる実感〟がサラリーマン時代の何倍もありますね」
その楽しさを原動力に、カバンのオーダーひとつとっても「アイデアが斬新!」とクライアントをうならせている近本さん。
こんな風に彼に作品を生み出してもらえるクライアントさん、彼と縁を持てる作家さんは幸せだろうな、そう思えるほど、一緒にいると頼りになってワクワクしてくる。
今度、若手作家さんと話す機会があったらこう言ってみようか。
「どんどん交流会に行くといいよ~。近本さんにも出会えるかもしれないしね」と。
プロフィール 近本美幸。ステンレス折り紙®をきっかけにアートの世界へ。立体オブジェを製作、似顔絵作家・イラストレーターとしても活動。ほか、商品開発コンサルタント、ロゴ制作など幅広く展開。2015年は国際現代美術展に出品、パリ・ルーブル美術館にて展示販売など、展示や個展開催も多数。
BIKOH DESIGN(ビコーデザイン) 住所/兵庫県川西市荻原3-4-8 電話&FAX/072-743-6723 URL/http://bikoh-design.com/
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