- 2015-12-29
- インタビュー
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▲【赤ずきんの絵として「最後の晩餐」】
得意なことだから、続けられる
刺繍で描かれたファンタジーなイラストが人気のMICAO作品。ステッチの質感や染めが、やわらかくあたたかい雰囲気の世界を生み出している。大手企業の広告や雑誌の表紙絵にとどまらず、カレンダー、手帳、カップ、エプロンなどさまざまな商品を展開している。
私ライターはるちゃんも、大阪のART HOUSEさんでカレンダーやレターセット、ティーカップなどを買っている。個展ではサインまで頂いてしまった(笑)。
取材にうかがった神戸のアトリエには色とりどりのミシン糸、染料、資料本がずらり。
案内してくれるMICAOさんの笑顔もかもしだす雰囲気もあたたかで、作品の世界観と同じに感じられ、ほっこりする。
「色は染料を混ぜて作れますけど、糸はそのものの色が大事なのでたくさん揃えてます。糸の細さ・太さを変えたり、ミシン刺繍に手刺繍を織り交ぜたりして表現していくんですよ。手だとふっくら仕上がりますからね」
なるほど、質感が味わい深いイラストは、そういったこだわりから生まれているんだなあ。〝こう表現したい、そのために何が必要か〟その必要なことをMICAOさんは知っている。その発想は柔軟だ。
▲【最近の作品から「お茶会へいこうよ」】
そんなMICAOさん、以前は外資系メーカーでファイナンシャルアナリストだったそう。なんだか意外!
「外資系企業の中にいると、逆に日本が恋しくて触れたいなって思ったんですよね。そんなときに古布のリメイク本に出会って〝素敵な発想だなあ〟って思い、古布のはぎれを集めたりしてました」
パッチワークが趣味だったので本を見ながらインテリアアートとして大きなタペストリーも作ったそうだ。
「手でさいてみようか? つまんでみようかな、なんて工夫してみました。市販の布だとしっくりこなかったりして、自分で染色もしましたね」
手芸が好きで、仕事から帰るのが遅くなっても針を持っていたら幸せだったという。
「小さい時から絵を描いたり、モノを作ったり、美術や家庭科の授業も好きでしたね。自分の得意なものならしんどくても続けられるんじゃないか、なんてことも考えました」
〝誰もやっていないこと〟を探してトライ
勤めをやめてから、美大に行きたいと思った時期もあったそうだ。けれど、妊娠、そして地元神戸では震災が起こるなど、生活環境に変化がある時期だった。本との出会いをきっかけにさまざまな作家さん・作品を知り、独学で自分のテーマをつむいでいく。
「我流ですから、コンテストに出してもダメだったんです。でも〝自由な発想・オリジナル〟をうたうハンズ大賞に出してみたところ、入選したんです! 〝私の家族〟をテーマにしたタペストリーでした。渋谷で展示してもらったとき、出版社の方の目に留まり、家庭科教科書の表紙になったんですよ」
ハンズ大賞は2年ごとの開催。次に出した際には、審査員特別賞を受賞した。装幀家・製本工芸家の栃折久美子さんが推してくれたそうだ。
受賞で、堰を切ったように新しい世界が動き始める。プライベートブランド〝MICAO〟をたちあげたのもこの年だ。以前勤めたP&G本社にあるギャラリーでタペストリーを展示し、好評を得る。ご主人が雑誌と関わりがあったことから「今、雑貨が流行ってる」「雑貨はせんの?」という声も届いた。
「調べたら、セレクトショップあるんやなあって。ホームページビルダーでサイトを作って、デジカメで写真を撮ってタペストリー作品を掲載しましたね」
〝雑貨作家募集〟というワードにピンと来た。オーナーさんのアドバイスも受けながらカバンやブックカバーを作った。まだサイト作成そのものがはしりの頃。次々と動いていく力がすごい!
お店の方でも作品の人気が出て、半年ほどで売上トップになった。恵文社からも声がかかり、雑貨作家2年目にして個展を開催。
「人のアドバイスを聞いて、周りを見渡してやっていたら自然にころがっていったんです」
すごい広がりですよね! と言うと「実はそろそろしんどいなあって思い始めてたんですよ」と笑う。
「絵だけ、布だけやりたいなあ」って思い始めてたんです。
そしてギャラリーVIE絵話塾「イラストレーションコース」へ入り、「既にキャリアのある人達と同じ土俵で戦うには、人と違う事をしなくては埋もれてしまう。刺繍とイラストを組み合わせれば面白いかも」と考え始める。
ハンドメイドから、イラストへと移行する中で、MICAOさんはハンズ大賞のときのように、さらなる飛躍につながる作品を生み出した。
テーマは赤ずきん。今、人気キャラである〝赤ずきんちゃん〟が出てくる作品だ。線画を中心に布を足したり、糸を足したり。どうやったら魅力的になるかと試行錯誤したそう。
▲【ギャラリーハウスマヤで受賞した「赤ずきん」】
「その作品でGallery House MAYA準グランプリをもらえたんです。2007年でした、そのとき〝あ、いけるかな〟ってがつんと手ごたえを感じましたね」
赤ずきんの本を出し、A.P.J.さんからカレンダーを出版することになった。
「これが初めての全国ネットでした。そして、農文協さんの季刊雑誌〝うかたま〟の表紙がきて。JR西日本の環境ビジュアルの仕事がきたりと、裾野がひろがっていきました」
広げ過ぎず、極めていきたい
朝日新聞社のスタイル朝日の表紙絵連載など、ひっきりなしにオーダーが続き、ファンの方が作品を買ってくれる。なんともうらやまし限り! でも、意外な話も出た。
「あれだけオーダーがあったのに、イラストレーションの話がぱたっと来ない時期が1年ほどあったんですよ。商品は売れてるのにね。見飽きた? 出過ぎた? って、そんなことを考えましたね」
その状況にどう向き合ったんだろう?
「時間がありましたからね。じっくり考えてみよう、考える仕事をしてみよう、って思ったんです。そのときにアルファベットシリーズを作ったんですよ」
▲【アルファベットシリーズ「L」】
「絵本のことも考えましたね。〝絵本向いてるよ〟って言われたりしてたんですけど、絵本が好きか刺繍絵が好きかって考えて。「刺繍だ!」って。文才ないし(笑)」
考える時間があったから、「こっちだ」としぼれたと話すMICAOさん。
「あまり広げてもね。あっちもこっちもだと、何もなさないから。縫製は25年になりますが、画力はまだまだ。布の表現もいくらでも可能性はあるし。あまり寄り道せず、これからは極めていくつもりです」
〝どこまでいっても足りない〟と、探求心のかたまりのようなMICAOさん。
趣味からスタートして、今や全国にファンを持つまでに。仕事として成り立たせ、続けていくコツを聞いてみた。
「自分の立ち位置、ハマるのは何か、どこで求められているのか見極めること。仕事にするにはこれが大事だなあって思いますね」
なるほど。最後に、今後どんな展望をお持ちか聞いてみた。
「昨年から取り組み始めた古布を使った作品作りを深めたいです。一度は役目を終えた古いもの、捨てられたものに新しい命を吹き込み、もう一度表舞台で輝かせてあげる事が、自分の次のミッションのような気がします。保護犬ポポちゃんとの出会いで、その思いがますます強くなりました」
取材中ずっとそばにいたワンちゃんをぎゅっと抱っこしながら、作品と同じあたたかみのある笑顔でそう話してくれた。
プロフィール MICAO
刺繍作家・イラストレーターとして、物語を感じさせる作品、甘くなりすぎない〝大人〟の刺繍イラストを生み出している。
うかたま、ペルソナ・エメラルド通信などの表紙絵、本の挿絵ほか、カレンダーやダイアリー、ティーセットなど幅広い作品を展開。
全国の百貨店、雑貨店などで個展を開催。
FB URL:https://www.facebook.com/MICAO.illustrator/
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