レシパーファイルvol.4 切り絵という日本の文化を 世界に向けて発信していきたい

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取材を進めていくうちに、キタノさんの作品作り・パフォーマンスには、建築設計の仕事で得たもろもろが活かされているのだなと感じられた。

「手描きの図面をひいていましたからね。図面で鍛えた腕で今、デザインナイフ一本で紙を切り抜いているんです」

そう話しながら、白い紙にデザインナイフで流線を描き、世界を生み出す様を見せてくれる。一枚の紙で下絵もカッティングもすべての工程をこなす。だから、やり直しもきかないし、複製もない。つぎはぎでなく、一枚の紙で、という点にキタノさんのこだわりがある。

また、前職での経験は、展示方法にも活きているようだ。

「建築の世界では、窓からの光の射し方も計算に入れていましたからね」

展示でどう光を当てればよいか、どんな照明なら作品が生きるか、とても緻密な計算がされている。作品がいろいろな形に姿を変え、一枚の切り絵が違った表情をみせてくれる。この見せ方もキタノさんならではの魅力だろう。

建築設計の世界で得た力が今に活きている

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キタノさんが前職で培い、今に活かしている力がもうひとつある。住宅設計などの際、役所など色々なところをまわり、相手の話を聞き、プレゼンしてきた。そのプレゼン力だ。

「今も同じように、ギャラリーの方と話し、相談しながら物事を進めていますね」

〝西宮阪急×SAMURAI〟として、西宮阪急6周年誕生祭の館内装飾を手掛けた折りにも、そのプレゼン力は存分に生かされたようだ。

「百貨店さん相手だと、やりとりもデリケートですしね」

これだけ繊細な世界を生み出す方だから、寡黙な職人さんなのだろうか、と勝手に想像していたがとんでもない! キタノさんと話していると、切り絵作家、プロデューサー、企画……と、さまざまな姿が浮かび上がってくる。

日々制作にたずさわり、SAMURAIの代表として企画や管理業務も行うキタノさん。

2014年7月に大阪で切り絵作家50名で開催した〝SAMURAI JACK初陣〟。大阪市内5会場同時に展示された。私もひとつの会場に足を運んだが、仲間を集め、企画し、動かしていく、その行動力と、緻密で繊細な切り絵を生み出す作家としての力、さまざまな力をあわせもつところに、本当にすごい人だなあと惹きつけられた。

わが子を生み出す喜びと お客様の声が原動力

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キタノさんがこれだけ動けるには理由がある。切り絵の楽しさが原動力なのだ。

「わが子を産んでるような感覚でしょうか。部分、全体が紙から出て僕の手にのる。僕ならではの感覚で、技術で切られ、生まれてくる。この生まれてくる瞬間が楽しみなんです」

作品を見つめながら、満たされたような表情で語ってくれる。

もうひとつ、嬉しい瞬間がある。展示して、お客様から『きれいだね』などの言葉をいただける時だ。制作の励みになるという。

紙に向かい手を添え、ぐっと顔を近づけ、集中して切っていくその姿勢はなかなか辛く、ストレッチが欠かせないのだという。そんな辛さがあっても、嬉しい瞬間があるから続けられると話してくれる。

「建築と違って、切り絵アートはすべて自分にかかってくる。そこもやりがいですね」

キタノさんの作品作りは模写から始まる。生き物を観察したり、ネットで見たりしながら模写しつつ、共感したこと・感じたことをレポートにまとめる。イメージをまとめる時間を十分にとり、その生き物が美しいと思う角度やポージングを考える。そこまで完成してから、やっとスケッチに入る。じっくり観察し感じたものを整理する時間を存分にとるからこそ、キタノさんの生み出す生き物たちからは、生命力が感じられるのだろう。

新しい文化を  世界に発信していきたい

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これだけ精力的に動いているキタノさん、今後の展望はどう描いているのだろう、聞いてみた。

「既存の切り絵の価値観をがらっと変えていきたいな、そんなことも思っています」

そして、東京オリンピックの年を見据えて、大きな目標もあるという。

「海外も視野に入れて動いていきたいと思っています」

5年後、東京オリンピックの年がひとつのターニングポイントだと話す。

「東京方面で〝切り絵JACK〟をやりたいと思っています。場所も未定で模索中なんですが、こんな若手から新しい文化が生まれようとしてるぞ、って知ってもらいたいんです。東京オリンピックは、時代の流れにのるチャンス、海外の注目を集めるいいきっかけになると考えています」

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集まることで大きな力になっているSAMURAI。海外でも通用するようにと〝SAMURAI〟という言葉を選んだそうだ。

音楽とのコラボパフォーマンスなど、挑戦の日々を続けるキタノさん。その情熱と技術と行動力で、5年後、東京でもSAMURAI JACKを開催するに違いない。

キタノユキフデ

切り絵作家/SAMURAI代表。切り絵作家として独立後、初めての作品が『国際切り絵コンクール イン・身延ジャパン』で入選(2013年)。同年、名古屋にて『クリエーターズマーケットvol.29』にメインビジュアルアーティスとして出演。2014年4月には、切り絵アートグループ“SAMURAI”を結成し、展示会を開いたり、百貨店館内装飾などをてがける。2015年3月、初個展を開催。
facebook : https://www.facebook.com/fuyuki.kinoshita.7/about
SAMURAI 公式サイト : http://samurai-cut.wix.com/samurai

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この記事の著者

ゆうな春瀬編集・ライター

雑誌・広告などの編集&ライターです。インタビュー記事、お店・会社紹介記事などたくさん書かせてもらい、16年目になりました。ものづくり作家さんや素敵なお店をどんどん取材して、記事をアップしていきます♪

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